【印刷通販】入稿データチェック担当に必要な知識とその学び方、心構えについて


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概要 ▶ 印刷通販で重要なお客様の印刷データチェックをする担当者の役割と必要な知識と、その知識の学び方・スキルアップ方法を解説。
【印刷通販】入稿データチェック担当に必要な知識とその学び方、心構えについて

2017年2月の終わりに、名古屋のとある印刷会社にて、「印刷通販の入稿データチェック」に関する勉強会を行いました。

印刷通販は、念のため説明しておくと、インターネットで印刷の仕様(サイズ・カラー・枚数など)を入力・決定して印刷データを送信(もしくはウェブ上で制作)すると、指定の場所に宅配便などで印刷物が送られてくるサービスのことです。

印刷通販(いんさつつうはん)は、インターネット上でオフセット印刷、あるいはオンデマンド印刷を発注できるインターネットサービスである。通販印刷、インターネット印刷ともいう。

印刷通販(Wikipedia)

印刷通販は私も前職で携わっていましたが、世の中に数多くあり、印刷業界では伸びている分野のひとつです。


印刷通販では基本的にデータを印刷通販を行っている会社へ送信(入稿)する必要があります。

そのデータはお客様によって様々な作り方があり、印刷データの品質はバラバラで、キチンとチェックしないと問題が起こる印刷データが多いのも事実です。


最近は印刷通販のサイトによっては、オンラインでデータの自動チェックを行い、お客様にすぐにフィードバックやデータの再作成を促すシステムを導入する会社も多くなってきましたが、資本力・開発力がある会社ならまだしも、そうではない会社では、スタッフが印刷用データをチェックしていることも多いでしょう。

世の中には、データの正しい作り方を説明したページは大量に存在します。お客様のすべてがそのページを見て理解し、その通りデータを作成してくれれば問題はほとんど起きないでしょう。

しかし、現実的に、データを受け入れる側は、お客様がそのページを見たかどうかなどはわからないわけで、入稿されてきた印刷データを見て、判断する以外にないわけです。

そこで、入稿データチェックのスタッフが、どういう知識を持つとより良くデータチェックができるのか、データを見る力(スキル)をつけるにはどうしたらよいか、また、どういう心構えで対応していくべきなのか、といったことを私の経験を踏まえてまとめ、勉強会を行いました。


ちょっと特殊でマイナーな範囲の勉強会でしたが、勉強会を行った会社様から、スライドの公開の許可を得たので、公開します。


目次 [ 隠す ]
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勉強会の対象

勉強会のスライドの対象者は以下の通りです。

  • 印刷通販を行っている会社の入稿データのチェック担当全般
  • 入稿データをチェックしているが、チェックする項目がよくわかっていない方
  • チェックする項目の数が多くて、嫌になっている方
  • 印刷データを扱う新入社員・スタッフ



勉強会のスライド

勉強会のスライドはSlideShareにアップしました。


以下はポイントでの解説です。



スライドで何が学べるのか

今回は『印刷通販のデータチェックスタッフのスキルアップ方法や心構え』と題して、勉強会を行いましたが、何が学べるかは以下の通りです。

  • 印刷データチェックはどんな意味があるのか
  • チェックに必要な知識
  • 知識を学ぶ手段・方法


そもそも、印刷データのチェックの工程の役割を正しく理解していないと、印刷データのチェックという作業は理解することができないので、まずは最初に根本的な部分を解説し、そしてチェックにあたって必要になる知識が何かを説明し、最後にその知識を学ぶ手段や方法を紹介しました。



そもそも「データチェック」とは何?

印刷データのチェックの定義は以下のものとしました。

データチェックとは「制作側の出力意図と、製版・印刷側の出力能力の間でコンセンサスがとれている状態になっているかを確認すること」です。

データを制作した側が「こうやって印刷したい」という思いと、印刷側の能力がキチンと合っているかということです。

わかりやすい例で言えば、データを制作した側が「カラーの印刷物を作りたい」と思っていても、印刷側の設備がモノクロの印刷機しか用意できなかったら、思いと能力が合っていませんよね。それではダメということです。


この話は2016年5月に開催された「DTPの勉強会 第21回」から続く話です。内容に関しては以下のページから。また勉強会の動画も販売していますのでご興味のある方はぜひどうぞ。



印刷通販の作業フローからデータチェックの立ち位置を確認する

印刷通販の業務に携わるにあたって、ざっくりとした作業フローを説明しました。

  • 注文
  • 入稿(データ送信)
  • データチェック
  • 製版(面付けや刷版)
  • 印刷
  • 製本・加工(他、出荷など)


今回のテーマである「データチェック」は製版の前工程ということになります。

データチェックでは、入稿されたデータに問題がないかをチェックし、製版の工程に渡す工程なのですが、そもそも「問題」とは何なのでしょうか?

  • 依頼された内容と違う
  • データが正常に開けない
  • データが印刷などで問題が発生する状態

これらの内容は、2番目の「正常に開けない」を除いて、依頼された内容(=注文内容)が「カラー(CMYK)」なのに「データがモノクロ(スミ1C)」だとか、印刷時にトラブルが発生するデータだとかは、データチェックの前後の工程の内容を理解していないと判断が無理なのです。



なのでデータチェック担当がチェックすべき項目は以下の通りになります。

  • 依頼内容と合っているか
  • 正常に開けるか
  • 製版できるか
  • 印刷できるか
  • 製本加工できるか

これらがキチンと「OK」と言えて、本来は「データチェック完了!」となるわけです。

なので、データチェック担当はすべての工程を(ある程度)理解しておかなければならない重要なポジションということになります。



印刷データのチェックの知識はどこで学ぶか

印刷データのチェックは多くの工程を理解していないといけないのですが、どこでその知識を学んだらよいのかということを説明しました。

勉強会では「ウェブ」「アプリ」「書籍」「現場」と分けて説明しました。

それではまず「ウェブ」から。



【ウェブ】Adobeの「出力の手引き」から学ぶ

Adobe公式のブログである「Adobe Creative Station」に掲載されている「出力の手引き」です。

このページは以下の内容で構成されてます。

  • PDF&出力の手引き
  • Illustrator CC 2017 互換性ガイドブック
  • Photoshop CC 2017 互換性ガイドブック
  • 新機能一覧 & OS対応状況(Photoshop/Illustrator/InDesign)



中でも「PDF&出力の手引き」は印刷用データ作成では基本となる作り方や注意点が掲載されており、気を付けるべきポイントが分かりやすく紹介されています。(結構誤りがあってAdobeの中の人には連絡してあるはずなんだけど修正されたのだろうか…と思って確認したら2017年3月20日現在では修正されていませんでした)

PDFファイルになっているのでダウンロードして見るも良し、冊子印刷して手元に置いておくのも良し、なアイテムです。



Adobeの「出力の手引き」のページの良い点は以下の通りです。

  • 公式の情報なので精度が高い
  • 情報がアップデートされる

そこらへんの誰が書いたのか分からない情報よりは、公式情報はやはり正確な情報が多く、また、出力の手引きは(主に新バージョンが出ると)アップデートされることが良い点ですね。いつまでも古い情報を見ていてもダメですから。こうした情報がアップデートされるかどうかは非常に重要です。


Adobeの「出力の手引き」のページの悪い点は以下の通りです。

  • Adobeアプリのことだけ
  • 古い環境の話は掲載していない

Adobeアプリのことだけなので、当然ですが、Word・Excel・PowerPointなどの他社のOffice製品について書かれていませんし、Illustrator 8などの古い情報は書かれていません。「出力の手引き」はAdobeの意向に沿って作成されているものなので仕方がないですね。



追記:PDF & 出力の手引き 2019(2019/08/18)

2018年11月に2019年版も公開されています。PDFは中の画像の解像度が不必要に低下しているので読みづらいですが…。



【ウェブ】SCREEN GPの「出力の手引き」から学ぶ

SCREEN GP(株式会社SCREENグラフィックアンドプレシジョンソリューションズ)の出力の手引きWebを次に紹介します。SCREEN GPは、RIPと呼ばれるデータを印刷用刷版(またはフィルム・印刷資材)用の画像データに変換するソフトウェアを開発しているメーカーです。

こちらのサイトでは、SCREEN GPのRIP、(印刷系の)Adobeの新しいアプリに関する情報などが掲載されています。

  • 出力の手引きWeb(株式会社SCREENグラフィックアンドプレシジョンソリューションズ)

こちらのページの情報も参考になるのですが、まず基本的な情報を確認しておきましょう。上部に「EQUIOS/Trueflow出力の手引き」というリンク(PDFファイル)があります。



「出力の手引き」という名前ですが、先程のAdobeの「出力の手引き」より歴史はこちらの方が長いです。現在第16版で、2014年6月19日が最終更新と書かれているので、少し古く感じますが、参考になります。


SCREEN GPの「出力の手引き」の良い点は以下の通りです。

  • RIPメーカーの情報なので精度が高い
  • 情報がアップデートされる

RIPという製版の重要なソフトウェアを作っているメーカーなので、さすがに情報の正確さや細かさが高いです。また、RIPやAdobeアプリのバージョンアップに伴って、内容が更新されるのも良い点ですね。


SCREEN GPの「出力の手引き」の悪い点は以下の通りです。

  • テクニカルな用語や情報が多いのである程度は知識が必要
  • RIP依存の情報もあるため、実際の運用環境と異なる場合もある

基本的にある程度は分かっている人向けに書かれている内容なので、専門用語などが多いため、これからデータ入稿のチェックを勉強する方には向きません。また、あくまで特定のRIPをベースに説明されているので、会社によっては、全然違う設定やチェックポイントがある点も注意点として挙げておきます。



追記:新しい出力の手引きWeb(2019/08/18)

2018年5月に出力の手引きのウェブサイトが新しくなり、新規の記事は以下のページに掲載されるようになりました。



【ウェブ】印刷通販各社の入稿データの説明から学ぶ

印刷通販のサイトは色々あるので、参考にしてみるのも良いでしょう。


印刷通販各社の入稿データの説明ページの良い点は以下の通りです。

  • ターゲットが一般向けに書かれているものもあり、比較的分かりやすい
  • 入稿されると困るデータについて書かれている

印刷通販のサービスはプロ向けのサイトもありますが、プロではなく印刷物を作りたい方向けのサイトも数多くあります。そのようなサイトの場合、説明も必然的に丁寧で分かりやすいものになっているので、初めてデータチェックを担当される方には理解しやすいページになっています。(お客様向けに説明ページを作る際にも参考になるでしょう)

また、説明ページの注意点とされている内容は、印刷通販各社で「こういうデータが来ると困る、トラブルになる」といったことが掲載されているので、注意点を読んでみて、気がついていないチェックポイントも見つかるかもしれませんね。


印刷通販各社の入稿データの説明ページの悪い点は以下の通りです。

  • 作業手順だけ書かれている場合もある
  • その印刷通販の会社の環境に依存する内容も含まれる
  • 古い情報が掲載されていることがある
  • 精度がバラバラ

印刷通販各社の取り組みのレベルによりますが、内容の精度や新しさがバラバラです。正確な情報なのか、最新の情報なのかという判断は読み手に委ねられるので、頭から信じずに、そういう情報もあるのだな、と冷静なスタンスで情報を得ることが重要です。



【アプリ】印刷のトラブルを防ぐためのプリフライトDCから学ぶ

「アプリ」で学ぶの項目では、アプリには印刷トラブルを防ぐための様々な機能が備わっていることを勉強会で説明しました。

その中でAcrobatのプリフライトである「印刷のトラブルを防ぐためのプリフライトDC」を紹介しました。

製版に通じた髙瀬さんが作成されたカスタムプリフライトで、印刷のトラブルになりそうな50項目以上をチェックできます。

このプリフライトは、ただチェックするだけでなく、なぜトラブルになるのかをキチンと説明を入れてあるので、データチェックの勉強では大変参考になります。


例えば「特色名のエンコードがUTF-8(日本語)」というエラーでは解説に以下のコメントが表示されます。

Illustrator CC 2017ではPDFを作成した際の特色名がUTF-8に変更されました。日本語を使用した場合、同名のShift_JISのものとは異なる色として扱われ混在する原因となり、配置、あるいはRIP処理すると文字化けします。また、擬似色定義のカラーに変換されて特色として扱えなくなるものもあります。特色名を英数字に統一してください。


CMYK4色が混じった黒の場合のエラー「4Cブラック(Japan Color 2011 Coated)」では解説に以下のコメントが表示されます。

RGBオブジェクトのブラックをJapan Color 2011 Coatedで変換(相対的な色域を維持)した状態が考えられます。4Cで黒を再現しているので4C未満の印刷では黒にならない、文字であれば版ズレの危険性があるのでK100%に修正するべきです。

実際にエラーがどういう問題を発生させるかと、どう対処すればよいのかわかり、勉強になりますね。


ただし、このプリフライトは現在、公開ダウンロードできるページやサイトがありません。…が、作者の髙瀬さんに許可を頂き、このサイトからダウンロードできるようにしました。使ってない方はぜひご利用ください。(Acrobat DC専用です)

【追記:2019/09/07】髙瀬さんから2017年版のプリフライトプロファイルは現在のAcrobatでは正常に動作しない項目もあり、正しい使い方ができないということで、オーバープリントのチェックに機能を限定したプリフライトをご提供いただきました。ダウンロードは以下のリンクをクリックしてください。

プリフライトプロファイルをダウンロード



【書籍】から学ぶ

次に「書籍」から学ぶの項目ですが、紹介した中から主な4冊を紹介します。

まずは全体をざっくり学ぶにはこの書籍。

企画・編集から、DTP、カラーマネジメント、校正、刷版(製版)、印刷方式、製本加工、社会的責任まで、大まかに理解できる書籍です。サイズが大きく、ちょっと扱いづらいかもしれません。



DTPの用語集は手元に置いておくべきでしょう。

DTPだけでなく、印刷に関する基本的な用語を網羅しています。

Wikiを本にしたものなので、普通の書籍と雰囲気が違い、少し読みづらい部分もありますが、持っていて損はない1冊です。



DTP関係の情報が網羅的に書かれている書籍です。索引から用語集的にも使えるので便利です。

情報量が多い反面、字が小さいので少し読みづらいのは何とかならないのでしょうか。



こちらの書籍は「印刷現場では持っておいて損のない1冊」といえるもので、印刷に関してかなり専門的な内容が掲載されているものです。

入稿データチェックのスタッフはなかなか印刷現場に行くこともないでしょうから、こうした書籍から印刷のトラブルと原因を知っておくと、対策ができるのではないでしょうか。



【現場】に寄せられるお客様からのクレームから学ぶ

「現場」から学ぶ方法のひとつに「お客様からのクレーム」を取り上げました。

お客様がクレームは、できあがった製品に対して期待したものと違う場合に発生します。

クレームの原因となった現象はなぜ発生したのか、未然に防げなかったのか?とキチンと考えることが重要です。チェックすべき項目はこうしたクレームに隠れています。もしかすると、お客様のデータが原因で、気を付けていただけばクレームの発生が起こらなかったかもしれないのです。



そこで気を付けなければいけないのはこういうこと。

「次は気を付ける」「次は注意して作業をしましょう」とかいうものは、根性論に近いもので、「気がつけばラッキー」程度のものです。仕組みとしてクレームの原因が発見できるものを考え、作り上げていくことが重要です。

作業のチェックシートなどはどの職場にもあるものだと思いますが、そのチェックシートに書かれているチェック項目を見落とすとどういう問題が発生するのか?をスタッフ全員が理解しておきましょう。トラブルの原因と結果を理解することで、他にトラブルが発生したときに原因を追及できる力が大きく変わってきます。



良い製品ができて、キチンと出力できたと、ようやく言える

入稿データチェック担当のお仕事は、お客様の印刷データをRIPできるかどうかをチェックして、製版工程に流すことではありません。

印刷データ通りに正確に製版できても、それが印刷トラブルを起こすのであれば、お客様から見れば「不良品」です。

「正しく出力できる」ことを「良い品質の製品」(お客様が期待する製品)と同じだと思わないでください。



データを製版した後の工程には、印刷・断裁・製本加工などの工程がまだあります。

後の工程でトラブルが発生しないかを、データチェックの時点で発見することが重要です。データチェック担当は製品作りにおいて要の工程と言えるのです。



入稿データチェック担当の方は、IllustratorやPhotoshopの操作だけでなく、前工程、後工程にも関心を持ち、様々な情報を吸収していくことで、より良いデータチェックができるでしょう。



それでは、よいデータチェックを。


画像提供



追記:「印刷トラブルを防ぐためのプリフライト DC」の更新について

2017年3月21日版の変更点・新機能(2017/03/22更新)

髙瀬さんの「印刷トラブルを防ぐためのプリフライト DC」ですが、2017年3月21日版の変更点・新機能は以下の通りです。


改良点

  • 互換性のない可能性があるヒラギノフォントの検出
  • K100%のみのオブジェクトに透明効果の検出
  • 白のオブジェクトを使って濃度変換の検出
  • 仕上がりケイ、または仕上がりまでしか伸びていないケイの検出


新機能

  • 矛盾したグレースケールのPDFの検出
  • 出力インテントは一般的なコート紙以外のプロファイルの検出



2017年3月22日版の変更点・新機能(2017/03/23更新)

髙瀬さんの「印刷トラブルを防ぐためのプリフライト DC」ですが、2017年3月22日版の変更点は以下の通りです。


変更点

  • オーバープリント関係のチェックでテキストに反応しない不具合を修正
  • 4Cブラック関係をエラーから警告に変更



2019年9月5日版について(2019/09/07更新)

髙瀬さんの「印刷トラブルを防ぐためのプリフライト DC」の2019年9月5日版は機能限定版として提供されており、以下の機能となっています。(髙瀬さんのコメントより)


機能としては、オーバープリント(自動スミノセ問題対応)チェックです。

サードパーティの高度なトラップ処理に使用される破棄してはいけない白のオーバープリント等の製版、印刷会社向けの設定はAdobeのアプリケーションでは再現できないので、それらを除いた一部の機能を抜き出したものとなります。必要最小限の機能は備えているはずです。

メタリックインキの判定名称は、DIC23色、PANTONE601色(Illustrator、InDesignで用意されているものすべて)、金、銀、特金、特銀に対応しています。これら以外に特色名を変更(RIPによる「*」の変換含む)している場合は、通常のスポットカラーとして認識されます。

必要なAcrobat Pro DCの条件は、pdfpreflight Ver.16に対応した2019.012.20036以降となります。

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